日本語能力試験
2021年度の第1回目の日本語能力試験が7月4日に行われます。学生たちも合格に向けて、全力でラストスパートをしています。
日本語能力試験はN5~N1までの5レベルがあります。一番レベルが高いのはN1です。「N」はNIHONGOの頭文字とNEWの頭文字です。かつては4級~1級という分類だったのですが、試験の形式が新しくなったため、N5~N1という分類に変わりました。
中国の大学では一般的に3年生のときの第2回目(12月)の日本語能力試験でN1に合格する学生が多いです。
私も毎年日本語能力試験の問題を解いているのですが、N1に関しては満点が取れません。しかしながら、日本語学習者の中には満点を取ってしまう学生もいます。
かつては中国の大学の日本語学科の中にはN1合格を卒業条件としている大学が数多くありました。おそらく現在はそういう大学は少数になったと思いますが。
また、日系企業の中にはN1合格が採用試験を受けるための最低条件としている企業も数多くあります。
また、大学によってはN1の合格率が大学の日本語学科の査定や教師自身の査定にも影響することもあるため、日本語学科の先生たちが総出でN1の合格に力を入れている大学もあります。そういう大学の場合はおそらく日本語学科の学生を募集するときにも、N1の合格率を謳っているのではないかと思います。
ですから、日本語学科の学科長は各クラスの合格率を非常に気にするのだと思います。実際学生たちもクラスで何人合格したか、誰が合格したかを詳細に知っています。おそらく教師の指示で各クラスで最後の審判のようなことが行われているのだと思います(笑)。
さすがに私は授業でN1に不合格になった人を吊るし上げるために、不合格者に手を挙げさせたり、逆にN1に合格した人を褒め称えるために、合格者に手を挙げさせたりしたことはありません。いずれにせよ不合格になった人を傷つける結果になってしまいますので。
話が少し脱線してしまいましたが、中国の大学は日本語のコミニケーション能力を育成するよりもN1に合格させることに力を入れている大学が多いです。
それを証明するかのように、実際中国の大学では会話の授業が週に1回しかない大学がほとんどです。このことからも会話の授業がいかに重視されていないかがよくわかります。
その弊害からか、中国の学生は筆記試験は得意だけど、会話が苦手な学生が多くいます。それもそのはずです。週1回の会話の授業だけでは会話力が伸びるはずもありません。ですから、学生の中にはN1に高得点で合格しているのに、全然しゃべることができない学生もいます。このことは中国の大学も学生も会話の授業をいかに軽視しているかを如実に物語っています。
その証拠に日本語能力試験が近づくにつれて、会話の授業を欠席したり、授業中内職したりする学生が続発します。
また、会話の授業は週1回だけなのに、聴解の授業が週2回もあり、それをすべて外教に担当させる大学もあります。
学生に「N1で何が難しいですか」と聞くと、必ずと言っていいほど、口を揃えて「聴解です」と返ってきます。その理由は日本人の話すスピードがとても速く、内容も日常話なのに複雑になっているため、よくスキャニングして聞かないと問題に答えられず、しかも1回しか聞くチャンスがないからのようです。
N1に合格するためには言語知識の分野、読解の分野、聴解の分野での総合得点が合格点(100点)以上であるとともに、各分野のそれぞれの得点が基準点以上(19点)である必要があります。つまり、総合得点が合格点以上であっても、どれか1つの分野が基準点を下回っていれば、不合格になります。
N1に不合格になった学生の中には総合得点が合格点以上であるのに、聴解の分野で基準点を下回ってしまったために、合格できなかった学生が多くいます。ですから、大学の中にはこの聴解の分野での問題点を解決するために、週2回、聴解の授業を外教に担当させる大学もあるのだと思います。
また、聴解の次に難しいと声が上がるのは読解です。なぜなら、N1の読解の問題は日本の大学入試レベルの評論文などが使われていますし、その評論文を読むには読解力だけではなく、日本の文化的背景や日本人の価値観なども知らないと、内容がよく理解できないからのようです。ですから、中国の文化的背景や中国人の価値観で考えてしまうと、問題が全然解けなくなってしまうようです。
日系企業が求めるのは
以前飲み屋で知り合った日系企業の方から「私の企業が採用した日本語学科の学生はN1に合格しているのに、全然しゃべれない」と言われたことがあります。やはり日系企業にとっては、N1の成績が高い人材よりも即戦力(日本語でスムーズにコミニケーションが取れる人材)を欲しているのが本音のようです。
これはつまりN1の合格がその人の日本語能力を図る物差しになってはいないということを物語っています。このことは裏を返せば、日本語能力試験に問題点があるとともに、日系企業が求める人材を大学側が育成できていないということにもなります。
ですから、日本語能力試験にもHSKのように会話の試験を取り入れるべきだと思います。一番良いのは日本語能力試験にもOPIのような外国語の口頭運用能力を測定するためのインタビューテストなどを行って、合否を決めるべきだと思います。
そうすれば、大学も会話の授業を重視してくれますし、学生も日本語の会話を上達させるために、会話の授業も日本語コーナーにも積極的に参加してくれるようになると思います。
ただ、日本語能力試験で会話の試験を行うと、受験料が更に跳ね上がってしまうという問題もはらんでいますが。現在でもN1の受験料は550元(約9000円)もしますので。
ちなみに、中国の大学を卒業したばかりの学生の初任給がだいたい3000元(約50000円)ぐらいですので、この受験料を日本の物価水準に換算すると、おそらく3~4万円ぐらいの感覚になるのではないかと思います。いかに日本語能力試験の受験料が高いかがわかります。
もし不合格になったら、大金をドブに捨てることになってしまいますし、不合格になれば、また次回受け直さなければなりませんので、親に更なる金銭的な負担を掛けてしまいます。ですから、学生たちは相当なプレッシャーの中で、日本語能力試験という魔物と戦っているということを日本語教師は頭の片隅に入れておくべきだと思います。そうすれば、会話の授業中、内職していても拳を引っ込めることができます(笑)
こう考えてみると、学生たちが会話の授業を休んだり、会話の授業に参加せず、一生懸命内職する心理がよくわかりますし、それは自然の摂理であるとも思えてしまいます(笑)
実は私は会話の授業よりも日本語能力試験の対策授業をするほうが好きです。ですから、本来であれば、会話の授業で、会話の授業をやらずに日本語能力試験の対策授業をしたい気持ちでいっぱいなのですが(笑)。そうすれば、お互いにwin-winの関係にもなれます。
なぜなら、学生たちにとっては先生が日本語能力試験対策の授業してくれれば、会話の授業が自分にとって無駄にならないので、自ずとやる気が出てきますし、私にとっても学生が真剣に授業を受けてくれるので、自ずと教え甲斐が出てくるからです。それだけではなく、日本語能力試験対策のスキルを身に付けられれば、将来、日本語能力試験対策や高考の日本語対策を行う塾で働くこともできるからです。
私は将来、日本語能力試験に会話のテストが加わることを見込んで、OPIのテスターの資格を取りたいと思っているのですが。
私はいつも会話のテストで評価をするとき、どうしても主観的になってしまいます。ですので、この資格を取れば、それを改めることができ、もう評価で悩まずに済みます。しかしながら、OPIのテスターの資格を取るためには、ものすごいハードルを乗り越えなければならないのですが。
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